橋本利廣(Toshihiro Hashimoto)
私はもともと個人タクシー の運転手をしていたのですが、20数年前、いつものように病院の玄関にタクシーをつけてお客様を待っていたときの事です。病院から車いすにおじいさんを乗せてやってきたおばあさんに、「市内の団地まで行って、4階にある自宅まで連れて行って欲しい」と言われましたがお断りしたことがありました。
当時は運転手の車外での行為には保険が効かなかったため、何かあったときのことが心配だったのでお断りしたのですが、帰宅後、そのことを家内に話したらひどく叱られました。
家内は福祉の仕事に携わっていたものですから、「なぜ助けてあげなかったのか」と言われました。
それ以来、車いすを押しているお年寄りの事が気になり周囲を見ましたら車いすの人たちがずいぶんと見かけるようになり驚きました。後になって考えるとこのことが介護の道に入るきっかけになったのだと思います。
当時はバブルがはじけ、空車のタクシーがあふれ始めていた頃です。
九州のメディス社長の木原圭介さんが介護タクシーを始められた頃で、介護タクシーが全国的に広がりつつありました。
私も木原圭介さんの介護タクシーでは大きな刺激を受けました。
そこで私は図書館などで介護に関する資格や介護の技術、市場について調べまくったわけです。
すると、ヘルパー2級や介護福祉士などの資格は、入浴や食事介助など「居宅」が中心で、戸外での技術はほとんどないことが分かりました。
それなら「外出介護技術」というものを自ら作ってしまおうと思いついた訳です。
「外出介護技術」という書籍をつくりました。
個人タクシーの乗用車に車いすのお客様も乗せられるように2002年にはスウェーデンの会社から車いす乗降装置の付いた機械を取り寄せ、さっそく国内向けに改造して研究・開発を始めました。府中に工場を貸してくれるところがありましたのでそこを利用しました。そして、自分の個人タクシーの車両を改造して車いす乗降装置を取り付けました。
私の個人タクシーの名称を木原圭介氏の「介護タクシー」と比較するために「介護付け個人タクシー」と銘打って仕事を始めるために準備をしました。
この介護付き個人タクシーを福祉機器展というイベントに出展しました。
そのときに助手席に車いす乗降装置を取り付けた機械が28台も売れたのでビックリしました。
翌2003年には、特定非営利活動法人として福祉グループコアラを設立します。
2004年の介護保険法改正で介護タクシーでも介護保険が使えるようになったので、介護保険についても徹底的に勉強しました。
そして、当時「もっと安く利用できないか」という利用者さんの声に答える形で、利用料の1割負担で使えるしくみを整備しました。また、介護保険を使用した場合に事業としてやっていけるのかどうかを徹底的に精査研究しました。そして将来性があると分かり「介護保険タクシー」を誕生させました。
これが介護保険タクシーの始まりです。
その後車いすのお客様も乗せられる介護付き個人タクシーで個人タクシーもやりながら介護保険タクシー事業を始めました。
介護保険タクシーを始めた頃は、ひとりの仕事の以来もなかったので随分と心配しました。
半年がたつ頃にやっと初めてのお客様が現れました。
後になって分かったのですが、このお客様が友達や親戚に介護付き個人タクシーの評判を広げてくれていたのです。
その頃になると少しづつお客様が増えてきました。
あるときに役所から紹介されたお客様に約束の時間に行かなかったことがありました。
役所から「お客様が待っているので早く行ってください。」と催促の連絡が入りましたが、行きたくなかったので、今、タイヤがパンクしているので行けませんと嘘をついてしまったのです。
その当時は、お客様を動かすのが分からなかったりして行くのが嫌になっていました。
役所からは「お客様が待っているので早く行ってください。」と再度連絡がありました。
行ってみるとお客様が家の外で車いすに座ったまま待っていました。
お客様の姿を見ると何だか気の毒に思いました。
その後気にしていた介護技術の事を研究するようになりました。
そして「ひとり車いす階段介助法」を考え出したのです。
光が丘団地の5階に住んでいる20才の女性でした。
交通事故で脊髄損傷という病気をかかえていて車いす生活でした。
病院に行きたいのですが階段を下りるのができないのでなんとかおんぶしてでも下に降りたいのでお願いしたいという依頼です。
この団地は県営住宅でエレベーターがありませんでした
行ってみると車いすに乗っていました。
おんぶしようとしたのですが、少しでもゆれたり衝撃があると響くので慎重にお願いしたいということでした。そこで車いすごと下まで降りることにしました。
車いすで降りるのときに階段の段差でショックがあると脊髄に響くのでゆっくと一段ずつゆっくりと降りていきました。およそ30分ぐらいかかったと思います。
降りてみて「どう痛かったですか」と聞いたところ全然痛くなかったと言ってくれました。
それからこの女性は外にいくつ度に私を呼んでくれました。
この階段の登り下りから「ひとり車いす階段介助法」が考えられたのです。
将来の事を考えて「ひとり車いす階段介助法」は商標登録をしました。
今、日本中で階段介助をしている人たちがいますが、この「ひとり車いす階段介助法」を参考にしているということでした。
団地の4階に住んでいる両足のない透析の患者様を扱ったときでした。
役所の人たちが4人がかりで車いすの昇降介助を行っていましたが、いつも4人揃えるのが大変だということで私のところに依頼がありました。
私はこの人をひとりで階段介助を行いました。
約3年ぐらいこの人の階段介助を行いました。
このときに初めて透析のことを教えて頂きました。今では、この教えて頂いた事を基本にしています。また、透析を教えて頂いた事を感謝しています。
目の見えない人、認知証の人、耳が聞こえない人、軽度の知的障害者や重度の知的障害者やベットに寝たきりの人、寝たきりの人のベットから車いすへの移乗、車いすでのひとり階段介助、末期のガン患者の一時帰宅者・認知の方など数えてみたら、今まで4000人以上の人たちを介護してきました。
ある時から一日10件以上お断りする日々が続きました。
評判が評判を呼び、次から次に仕事の依頼が来るようになりました。
今まで、介護保険タクシーなんてうまくいくはずがないと批判的だった個人タクシーの人たちでしたが今では「橋本うまくやったね」と言ってくれます。
このことをホームページに少しづつですが出すようにしたら、わたしにも介護保険タクシーをやらせてくれという依頼が来たのです。
ホームページを整備し説明会を開いたらどんどん依頼が来るようになりました。
2022年現在1098事業所が加盟するようになりました。
これには私も驚いている次第ですが、どういう訳か事業者の数も増えているということは、もしかしたら時代が求めていたことかもしれないとこう思いました。
数をこなしてきたおかげなのかどうかは分かりませんが、おかげ様でよい方向で余裕をもって利用者にも向き合えるようになりました。
私は今でも現場でお客様の介護をやっています。
やはり、現場が一番おもしろい。また、いろいろな人とも出会えるし勉強にもなる等、これからも現場に出てお客様のお役にたちたいと思っています。
これから開業を目指している皆様も私と一緒に頑張って参りましょう。
この仕事は時代にマッチしたやりがいのある仕事だとつくづくそう思いました。
「介護保険タクシー」の全国展開で、在宅高齢者を支える仕組みづくりを推進
大介護時代がやってくる !
特定非営利活動法人福祉グループコアラ 理事長:橋本利廣
新規事業開拓の着眼点と現況、今後の展望など
介護保険が適用される「介護保険タクシー」の全国展開によって、在宅高齢者の暮らしを支える仕組みづくりを目指す特定非営利活動法人福祉グループコアラ。同法人を創設した橋本利廣理事長に、新事業開拓の着眼点と現況、今後の展望についてうかがった。
「居宅」中心の現状を打破、独自に「外出介護技術」を開発
ーーー橋本理事長がはじめられた介護保険タクシーは、そもそもどのような背景からスタートしたのですか。
●私はもともと個人タクシーの運転手をしていたのですが、20数年前、病院の玄関にタクシーをつけてお客様を待っていたとき、車いすにおじいさんを乗せてやってきたおばあさんに、市内の団地まで行って、4階にある自宅まで運んでほしいと言われ、お断りしたことがあるのです。
当時は運転手の車外での行為には保険が効かなかったため、何かあったときのことが心配だったからです。
帰宅後、そのことを家内に話したらひどく叱られました。
家内は福祉の仕事に携わっていたものですから、「なぜ助けてくれなかったのか」と言われました。
それ以来、車いすを押しているお年寄りが気になるようになり、ずいぶん見かけるものだと実感します。
当時はバブルがはじけ、空車のタクシーがあふれはじめていた頃です。
九州のメディス社長の木原圭介さんが介護タクシーをはじめられた頃で、介護タクシーが全国的に広がりつつありました。
木原圭介さんの介護タクシーに刺激されました。それは大きな衝撃でした。
そこで私は図書館などで介護に関する資格や介護の技術、市場について調べまくったわけです。
すると、ヘルパー2級や介護福祉士などの資格は、入浴や食事介助など「居宅」が中心で、戸外での技術はほとんどないことがわかりました。
それなら「外出介護技術」というものを自ら作ってしまおうと思いたったのです。
2002年にはスウェーデンの会社から車いす乗降装置の付いた機械を取り寄せ、さっそく国内向けに改造して研究・開発をはじめました。
翌2003年には、特定非営利活動法人として福祉グループコアラを設立しました。
2004年の介護保険法改正で介護タクシーでも介護保険が使えるようになったので、介護保険についても徹底的に勉強しました。
そして、当時「もっと安く利用できないか」という利用者さんの声にこたえる形で、利用料の1割負担で使えるしくみを整備、私が「介護保険タクシー」と命名したのです。
介護保険の活用でご利用者も事業者もメリットを受ける
−−−介護保険タクシーと介護タクシーの違い、また、介護保険タクシーのメリットとはどのような点ですか。
●介護保険タクシーは介護保険を利用して利用者を病院等に送迎するサービスを提供できる免許と、全額現金扱いのケア輸送サービスの免許を取得して行います。
つまり、介護保険タクシーは介護保険を利用できる点と介護タクシーも含む・できるといういわば大型免許のようなものです。
介護保険事業として位置づけられるため、法人格と二種免許、ヘルパー2級以上の資格が必要になりますが、介護保険適用により10分の1で利用できるなど利用者側の「できるだけ安く」というニーズに応えることができ、法人格を取得しますので、個人と違って信用度が格段と違うことや事業としての拡大が容易となります。
さらに、役所やケアマネージャーといった介護のプロを介することで、ご利用者から「顔が見える」事業を展開できるので、信用力を得ることができます。
一方で介護タクシーは、ケア輸送サービスであり二種免許のみの申請で簡単に申請や事業を行うという容易さはありますが、介護保険を利用できないのでご利用者は全額現金負担となり、もっと安く利用したいというご利用者のニーズにはほど遠いことも事実のようです。個人事業ということで信用度の問題や事業の発展性にも限界があるといえます。
介護保険タクシーは、介護タクシーのデメリットをも全て含みカバーするという点で注目されています。
当法人では、介護保険のご利用者を対象とした介護保険タクシーにおける事業の開業支援とフランチャイズ(FC)による全国展開を推進しています。
未経験の方でもゼロからスタートでき、スカイプによる通信教育制度で定期的に研修を行い開業できます。(KIES研修システム)
2007年からはインターネットでのFC募集もはじめており、現在、北は北海道から南は沖縄まで加盟店も急激に増えてきました。
車両は1台からスタートしますが、スロープ付きの軽自動車など、当法人独自のルートを利用して購入しますので安く提供することができます。
加盟料は165万円、ロイヤリティは10%で、介護保険の部分にだけ発生させ、全体の売り上げには企業努力ということでいっさい関与しません。
また、介護保険分が60万円を超えなければ、ロイヤリティはいただきません。
事業をはじめるにあたっては、事業資金として350万円程度は必要ですが、開業1年目で月100万円以上、なかには月400万円、年間で5000万円を売り上げる事業所も出てきています。
最近では女性の開業者も増えています。
介護保険タクシーの技術力を武器に、多方面での事業拡大も
−−−介護保険タクシー事業の今後の展望、方向性についてお聞かせください。
●2012年4月には、新たな介護保険サービスとして24時間対応の「定期巡回随時対応型訪問介護看護法」がスタートしました。
このサービスに象徴されるように、今後、国は施設はなるべくつくらず自宅に帰す、在宅ケア強化の方向性を打ち出しています。
自宅から病院への通院ニーズはさらに増え、市場の拡大が予測されます。
運輸事業ではありますが、この事業で何よりも大切なのは、プロの介助技術力です。
ご利用者には寝たきりの方や脊髄損傷などで動けない重傷の方もいらっしゃいます。
そういった方を、車いすに移乗したり、車いすごと3、4階まで階段を乗降したりします。
それを一人で行うことが基本です。
どんな場面でも、ご利用者に「痛い思いをさせない」プロの技術力こそが営業力だと思っています。
そのために当法人ではマニュアルを整備し、研修も定期的に行っています。
当法人では現在、本格的なFC展開を目指し、各県に統括部門である開発デベロッパーなどを設ける準備を進めています。
当法人の技術力を武器に加盟店を増やし、5年で全国に1800事業所を設置することが、現在の目標です。
私はこのプロの技術力を観光のジャンルに活かすことができると考えています。
全国にFCを拡大しているのもそのためで、料金体系を統一し、介助の必要なお客様が一般の人と同じように露天風呂を利用したり、ハンディ担架などを利用して寺院の階段を上り下りしたりできるようにしたいと考えています。
一般の露天風呂だけではなく、秘湯である名湯100選など、バリアフリーが開発されていない露天風呂にも入浴させてあげたいと考えています。
FC加盟店のスタッフの技術力をさらに向上させ、宿泊施設や飲食店などと連携し、地域の活性化に貢献できればと考えています。
また、介護保険を利用する高齢者は「顔が見え」「信用」できる相手ならば、さまざまなビジネスチャンスを与えてくれます。
お客様を快適に送迎介助する技術が、たとえば粗大ゴミの搬送、墓参りや墓掃除、庭の雑草取りなど、高齢者の暮らしそのものを支えていくコンシュルジュとしての役割を果たしていく可能性が十分にあると考えでいます。
いまでは公的介護保険外サービスという位置付で、厚生労働省と経済産業省がこの事業を推奨しています。
これからは大介護時代がやってくる !
これからは
福祉の時代です。
好むと好まざるにかかわらず
高齢者が3人にひとりという大介護時代がやって来ます。
そのときを
あなたはビジネスチャンスとして捕えられるのか
それとも見過ごしてしまうのか
選択は自由です。
私は高齢者のお手伝いをしたいと考えています。
そして大介護時代だからこそ地域社会貢献という志の高い人を育て
プロの事業者として世に送り出したいと考えています。
−−−本日はありがとうございました。
※このインタビューにご協力をいただきました総合ユニコム株式会社の取締部長福田友之様、編集部課長土田登様にこの文面をかりまして厚く御礼申し上げます。
特定非営利活動法人福祉グループコアラ 理事長:橋本利廣
・総合ユニコム株式会社参考ホームページ
http://www.sogo-unicom.co.jp
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